西岡力の労務動員(強制連行)論説について2 当てずっぽで語る「李承晩政権が日本から補償を取れると考えたのは「徴用」に関する部分だけだ」論

 

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西岡力は、『日韓歴史問題の真実』のp39でこう書いている。

 

「当時にはもちろん「強制連行」という言葉はなかった。それどころか、第一章で見たように、反日政策を強く進めた李承晩政権が日本政府に過去の清算としての要求を網羅的にあげた「対日請求要綱」のなかでも、この語は使われていない。ただ、「被徴用韓国人未収金」「戦争による被徴用者の被害に対する補償」という表現があるだけだ。つまり 、 李承晩政権が日本から補償を取れると考えたのは「徴用」に関する部分だけだった。」

ここで西岡は、【韓国政府が補償要求したのは「法的徴用者」のみである】と主張しているのである。

 

しかし、韓国政府は「徴用」という言葉を広く捉えており、西岡が使うような「法的徴用」のみを指して使用していない。法的な徴用以外の「募集」や「官斡旋」も入れて「徴用」と呼んでいるのである。例えば、1957年、李承晩政権が作成した『倭政時被徴用者名簿』には広く、被(法的)徴用者以外も含まれている(『朝鮮人強制連行に関する基礎資料の調査研究』海野福寿p19)。

 

有名な日韓会談では、第5次日韓会談第12次会議で次のように述べている。

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(p101)

「被徴用者とは徴用令によって徴用された者をいうのか」という日本側の質問に、韓国側はそれ以外もあることを告げ、日本側は「官の斡旋で来た者を含むのか」と聞き、韓国側は「そうだ」と答えている。

 

つまり韓国政府が使う「徴用」という言葉は最初から広く「官斡旋」等を含む概念なのである。

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 これについて、西岡力の著作を批判した山田昭次は朝鮮人戦時労働動員』のp108~109で、第6次日韓会談一般請求権小委員会第3次専門委員会で、韓国側が「官斡旋であれ、徴用であれ、当時韓国人労務者を日本に連行した方法は、甚だしく残酷だったことを知ってくださるよう願う」と述べた例も挙げている。

今日の徴用工裁判においても同様であり、韓国側では「徴用」という言葉を労務動員全体に使っている。これについては外村大が適切な説明をしている。

 

   『「徴用工」の用語は間違いか? 適切か?』外村大

そして日本政府の認識が、「今回の判決の原告については『募集』に応じたので『徴用』ではない」というものであれば、これもおかしい。
  この問題を考えるには、まず、「徴用」とは何か、ということをはっきりさせる必要がある。日本語の意味としては、「徴用」とは国家の命令で働かせることであり、朝鮮語の징용は漢字で書くと「徴用」であり、これもやはり国家の命令で働かせることを意味していると考えられる。その意味では、国の動員計画に基づいて働かされることを「徴用」というのは必ずしも間違いではない。

 

 

すると西岡の「李承晩政権が日本から補償を取れると考えたのは「徴用」に関する部分だけだった。」という主張はどこから来たのだろうか?

西岡の著作全体に言えることだが、根拠が書かれていないのでまるで分らないというしかない。昔指摘したことがあるが「奴隷とは金銭報酬をもらえず」と同様に、なんとなく想像して「当てずっぽ」で書いているのだろう。